仮想のメールへの仮想の返信

 

--- 授業は黒板の板書の画像のみで各自自分で学習するっていうことなんですか?

そうです.

--- この講義はオンライン授業じゃないんですか?!

「オンライン授業」の定義が video の real-time 放送,または video clip の on-demand download による講義ということならその意味での「オンライン授業」ではありません.

video 画像の放送/on-demand download による講義が効率的な講義科目もあるとは思いますが, 数学に関する限り,video 画像の放送は効率的な伝達方法とは言えません.これは, 理解するためには,最終的には,受講者が,自分自身で考えなければいけないからで, video clip では放映を一時停止して考えることもできるかもしれませんが, いずれにしてもあまり良い方法ではないように思えます.旧来の講義方法やリアルタイムの video 放送による旧来の講義方法の simulation は,受講者が講義の内容を先回りして理解できる能力と十分な思考の速度を持っている場合にのみ有効ですが, 私の経験では,そのような能力を十分に持った受講者は,通常,クラスに一人いるかいないか,というところだと思います.

昔,東大の大学院で集中講義をしたときに, この先回りをして理解の十分にできる学生が何人も受講していてびっくりしたことがありました. 国際ワークショップに参加していた5人くらいの Carnegie Mellon の数学科の大学院生が全員この能力を持っていて, びっくりしたこともあります.だから,そういう学生がいない, ということではないのでしょうが,この講義ではむしろできるだけ沢山の学生に重要な数学の基礎を学んでもらう, ということが主眼で,数学の場合,この「学ぶ」の目標は暗記したり, わけもわからず計算結果が出せるようになることではなく, そこでやっていることが何の抽象化になっているかを理解して,数学的な machinery についての全体像を把握してもらうことです. 少なくとも学部の講義では, クラスに一人いるかいないかの学生のためのエリート教育が主な目標ではありません. しかし,能力の十分にある学生のためにも, 講義の平均を越えたもっと本質的なことも学ぶ機会を提供する, という工夫もするつもりです (補足教材や,関連する話題に関するリンクなども充実させる予定です).

旧来の講義や,video 画像による講義の,日本での問題には,日本の学校では, 日本語の聞きとりの訓練が十分に行なわれていない (というよりそのような科目自体存在しない) ため, 言葉で言ったことを,言語の問題で十分にくみとってもらえない恐れがある,ということもあります.むしろ,上で 言ったような狭義の「インターネット授業」で 受講者の日本語聞きとり能力の訓練をするべきだ,ということも考えられるかもしれませんが,本講義は 数学の講義で,日本語の授業ではありません.

ところで,君のメールは ...mail.jp からの発信のものとなっていますが,メールは 「質問メールに関する注意の補足」にも書いたように, 神戸大学の学生のメールアドレスから送ってください. 今回はたまたま送っていただいたメールに気づきましたが, 他のメールアドレスからのメールは大量に送られてくるメールの中にまぎれてしまう恐れがあるし, 大学以外のメールアドレスへの私からの返信は,私のメールサーバーが時々 spam の発信源と疑われてしまうことがあって,うまく届かないことも多いので.

なお,このコメントは受講者全員への全体的な注意にもなっていると思うので,編集したものを BEEF の「アナウンスメント」欄に post します.



Last modified: Sun May 24 00:05:09 JST 2020