書評: Akihiro Kanamori: The Higher Infinite

渕野 昌 (Sakaé Fuchino)

日本数学会の邦文誌「数学」の依頼で
[kanamori]
Akihiro Kanamori: The Higher Infinite: Large Cardinals in Set Theory from Their Beginnings,
Corrected Second Edition, Springer Monographs in Mathematics, Springer 2004
の書評を執筆しました.

私は,1998年に,[kanamori] の第一版をベースにして,当時,著者の Kanamori 氏が準備を進めていたこの第二版のために書きくわえられつつあった改訂や拡張を取り込んだ, 日本語への翻訳を上梓しています. 翻訳者という立場からのバイアスがかかってしまう可能性もあり, 書評の依頼には多少躊躇したのですが, 本書の内容も含めて日本では集合論が他の分野の数学者には全くと言っていいくらい知られていないという現状もあり, むしろ研究分野の現状の紹介をかねた文章としての書評を書くべきではないかと思い, あえてお引受けしたのです.

そういう経緯から一般の数学者にも書評の内容の伝わるような工夫をしてみたのですが, その結果, 紙数が多くなりすぎて,「数学」の書評の枚数制限をはるかに越えてしまいました. 書いたことの内容が伝わるための補足説明をばっさり削ったバージョンは 「数学」の紙数制限には入りきるようにできたのですが,これでは, 専門家にしか伝わらないものになってしまうので, 一旦は原稿を取り下げようと思ったほどでした.

短かくした方は, 知っている人 (たとえば書評の対象の本を既に十分に読み込んだ人) しか分らない書評になっているとしか言いようがないようにも思えたので, そのようなものを書くことが求められていたのなら, わざわざこの本の翻訳をやった私がこの書評を書くこともなかったという気もしてきたからです. 参考のために,以下にもとの長い原稿と,紙面をけずった版の両方をリンクします. (「数学」に掲載予定の最終版とは異なります)

幸に, 「数学」の編集委員の1人の鈴木登志雄氏の気転により,書評に盛り込めなかった入門的な説明を 「これから学ぶ人のために」という特集記事のシリーズの1つとして 「数学」に掲載させてもらえることになったので,捨てたものを再利用して, 「公理的集合論 --- これから学ぶ人のために」 として10ページほどの記事を書くことができました.

これら文章の執筆のため結果として予想以上の時間をとられてしまったのですが, 記事と書評の両方を読んでいただければ, 僕がもともとそこで話したかったことがある程度ちゃんと読み取れるようになったのではないかと思います. もちろんこれで全部言うべきことが言えた,というわけでもないのですが, ここで言えなかったことの多くは, 今執筆中の集合論の教科書で触れることができると思っています.

書評の unabridged version
書評の abridged version (投稿前の最終版以前のもの)


Last modified: Fri Mar 18 09:41:47 +0900 2016