場所:9号館2階 924教室
「平面図形」の概念を最も一般的に捉えるには,二次元平面の任意の部分集合のことを平面図形 と呼ぶことにするべきであろう.同様に,3次元空間の任意の部分集合のことを「空間図形」のこと と考えてよいであろう.3次元以上の空間での 図形についても同様である. 一次元空間での図形の長さ,二次元空間での図形の面積,3次元空間で の図形の体積 etc.は数学的には次元に依存せずに扱かうことができることが知られており,このよう なものを測度 (measure) と総称する.このような面積や体積の自然な概念のうち, 最も一般的な定式化となっているものは, そのような測度の理論の基礎を築いたフランスの数学者 Henri Lebesgue(1875-1941) にちなんで,Lebesgue 測度と呼ばれている.
以下では簡単のために一次元で議論することにするが,一次元空間Rの部分集合の中には, 集合のサ イズとしてはR自身と同じ大きさを(つまり連続体濃度を)持つのに測度は0となるようなものが存在 する.しかし,このような例は,単に,集合の「要素の数の多さ」と「かさ」が異なることがありえる ことを示しているだけで,何ら矛盾でない.これに対して,Rの部分集合の中には, 測度を持たない (持ちえない)ものが存在することが示せる.Giuseppe Vitali (1975 - 1932)によって発見され, 現在では Vitali 集合と呼ばれているものはそのような集合の一例である. 測度を持たない集合は非可測集合と呼ばれる.測度が 0の集合とは異なり,非可測な集合は,ある 意味で病的な集合と考えられ,できれば,さけて通りたいような集合であるとも言える.
それでは,どのくらい複雑な集合が非可測な集合になりうるのであろうか? 記述集合論とよばれる 研究分野の初期の研究結果により,(ある高い次元の空間での)閉集合の射影として表せる集合はす べて測度を持つことが知られている.閉集合の射影として表せる集合は,解析集合と呼ばれることも あるが,実はこのような集合のクラスは,実質上初等的な解析学で扱われるような集合をすべて含ん でいる.
ところが,閉集合の射影の補集合(空間全体からその集合をのぞいた残りの集合)の射影をふたたび とるという操作で得られる集合を考えると,「こような集合のクラスに含まれる集合はすべて測度を 持つ」という命題は,通常の数学の議論では証明も否定もできない(ことが証明できる)のである!
この『通常の数学の議論では証明も否定もできない(ことが証明できる)』という不思議な状況の裏 には,ゲーデルの不完全性定理と呼ばれる現象がひそんでいるのであるが,本講演では,このあたり の事情についての解説を試み,できれば講演者自身の現在の研究との関連についても触れたいと思っ ている.
参考文献
[1] もう少し詳しいアブストラクト [2] (中学校や高校程度の数学の予備知識のみを仮定した)集合論の入門のための解説文: 数学の中の無限 - 無限の中の数学