八ヶ岳フレッシュマン・セミナー --- 数理論理学セミナー

担当: 渕野 昌 (Sakaé Fuchino)

八ヶ岳をセミナーの会場から見上げる

このページは, 毎年行われている 八ヶ岳フレッシュマン・セミナー の2008年の合宿での, 私の担当する数理論理学/数学基礎論の枠に関するものです. 今年のセミナーでも,昨年の合宿でと同様に, 無限組合せ論(古典的な集合論の中の一分野)に関する話題から, バナッハ=タルスキーの定理とこれに関連する結果についてのセミナーを行いました.

バナッハ=タルスキーの定理は,

定理(S.Banach and A.Tarski, 1924)
3次元以上の空間の単位球の有限個の部分集合への分割で,これらの 部分集合のそれぞれを適当に回転,平行移動(より正確には等長変換)して 組み合せなおすと,2つの互いに素な単位球が組上るようなものが存在する.
というものです.

この定理は,一見,我々の物理的な空間に対する直観に反しているように思えます. 単位球は,例えば半径が1インチの球形の金塊として近似的に物理的現実に置き換えて 考えることができますが,もし,この定理がこの物理的現実に近似的にでも 応用できるのなら,この金塊から,半径1インチの金塊が2つ作れてしまうことになり, 不思議なポケット(といっても若い世代の人には分らないかもしれないですが)や, 四次元ポケット(こちらの方は,日本国外も含めてある程度若い世代にも 対応可能でしょう)も顔負けです.

しかし,この定理は物理的直観と矛盾しているわけではありません. バナッハ=タルスキーの定理では,そこで存在の保証されている単位球の分割が, 物理的に実現可能なものであると言っているわけではないからです.実際,単位球を 物理的に分割した場合には,分割の各パートは体積を持っているはずですが, 等長変換ではそれぞれの体積は保存されるので,そのような分割では,定理で 述べているような現象は起りえません.


今年のセミナーのアシスタントは, 東北大学理学研究科数学専攻 学振特別研究員の根本多佳子さんと,東北大学理学研究科数学専攻 博士課程前期2年の木原貴行君におねがいしました.

教科書:

Winfried Just and Martin Weese:
Discovering Modern Set Theory I (Graduate Studies in Mathematics, Vol 8),
American Mathematical Society (1995/12)
の,p.143 〜 p.153 のうち 主に 9.4節を work out しました. セミナーを通じて, 全員がこの9.2節と9.4節の全体の内容について深い理解ができることを目標にしましたが, 最終日の成果発表のため, 参加した4人の参加者に次のような5つの部分への分担を割りふって,発表の準備をしました:

1. 回転群の部分群 G と Lemma 40. 
教科書 9.4 の初め (p.151) から p.152 Exercise 55(G) まで.

2. Hausdorff の定理.
教科書 p.152 Thoerem 41 の初めから,この定理の証明の終りまで.

3. Lemma 42.
教科書 p.152 の最後の行から,p.153 の Lemma 42 の証明の終りまで.

4. Banach Tarski の定理とその応用.
教科書 p.153 Theorem 43 の初めから,この頁の終りまで.
教科書のバナッハ=タルスキーの定理の証明を整理した ノート [08.10.25(土04:24(JST)) 更新] をここに置いておきます. これは,セミナーをやっている間に発見した誤殖や slips の訂正を記入した暫定版です.

近日中に, セミナーで細部のうめられなかった部分の細説や, イントロダクションの講義で話した内容とその証明 (これはかなり膨大な量になると思います)などを補足して, 独立した読みものになるようにしようと思っています. 特に,Z2 と Z3 の free product の回転群 SO(3)への埋め込みについては, Hausdorff の原論文に詳しい記述があるので, これを整理したものを書き加える予定です. また,参考のために, 10日のイントロダクションの講義に用いた スライド とその printer friendly version をここに置いておきます[08.10.25(土04:25(JST)) 更新].

なお, これは蛇足かもしれませんが,私が 2008年の春から夏にかけてバルセロナに滞在していた期間に時折書いていた作文の中に, バナッハ=タルスキーの定理に触れた文章 があります.


セミナーの参加者の一人だった永井 康史君のセミナーの内容やその補足を整理したノートが ここにあります. また,私のセミナーの内容と直接関係する話題ではないですが, もう一人のセミナー参加者の森田 健君の書いた 楕円関数論 に関するセミナーレポートをここに置いておきます.
このページはまだ工事中です.しばらくしてからまたチェックしてみてください.


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Last modified: Sun May 15 02:05:57 +0900 2016